言いたいことは山ほどある。
だけどそれを本人に伝える前に、私たちの関係は終わってしまった。

それでも大人って、強いもので。
半月も経てば、小牧さんとも普通に話せるようになった。

ただ一緒に夕飯を食べることも、出掛けることも、ランチを一緒にすることさえもなくなった。



「振り出しに戻っただけだな」


給湯室の戸棚からチョコレートスナックを取り出した逢瀬先輩は朝からお腹が空いているようだ。


「まぁそうですね…」


「おまえの気持ちはなにも変わってないんだろう?それなら奴の言う通り、ほんの一時、奴に甘い蜜を吸わせてやったと思えばいいさ」


「…そんな風に割り切れません」


沸いたお湯で紅茶を注ぎ、渡す。


「あいつに同情するなよ。相手は余計に惨めになる」


「同情なんて…」


「俺は見直したけどな。好きな女のために、妹の結婚を破棄させたんだろ。凄いと思うよ」


「…やっぱり私のためですか」


彼は愛のない結婚は望まないから、星崎課長と飛鳥さんを引き剥がしたと言っていたけれど…それは建前?


「妹のためを思うなら結婚を勧めた方がいいだろ。星崎課長ほどの男が他にいると思うか?あの人なら奥さんを絶対大切にするし、浮気なんてもってのほかだしな」


逢瀬先輩の言葉に大きく頷く。

例えそこに愛がなくても星崎課長が結婚を承諾したのであれば、彼は絶対にいい旦那さんになることだろう。ーー2人は幸せになったはずだ。