「ん? あっ、もしかして喉につまった!?」


焦る表情を見せたアーシェリアスに、少年はハッとして小刻みに首を横に振る。

違うのかと肩を撫で下ろしたアーシェリアスに、最後のひとくちを飲み込んだ少年は「名前は?」と訊ねた。


「私?」


確認して自分を指差すと、少年がひとつ頷く。


「私はアーシェ。アーシェリアスよ。あなたは?」

「俺は──」

「おーい! ザック! どこだー?」


メインストリートから路地を覗く人影とその声に、少年が反応した。


「兄上だ。もう行かないと」


隠れる必要がなくなったのか、少年は立ち上がるとまだ座ったままのアーシェリアスを見つめる。


「おやき美味かった。ありがとう」

「どういたしまして! またね、ザック」


探し人である兄が口にしていたのが少年の名だろうと予想しアーシェリアスが別れを告げる。

それは正解だったようで、ザックは「また」と返すとメインストリートへと小走りで戻っていった。

また会える保証はないけれど、いつかまた会えたらいいと願いながら、アーシェリアスもまた、半泣きでアーシェリアスを探し回るライラの元へと向かったのだった。