「お兄ちゃん、離して…」

「大丈夫。この件が片付いたら俺とふたりで愛を育んで行こうな」

「え…」


“この件”という言葉に違和感を覚えた私。


「いつも俺たちの邪魔をするからな、あいつは。
俺の未央に手を出すだなんて許せない」

「あい、つ…」

「神田拓哉のことだよ。未央の彼氏やってるんだろ?そんなの絶対に許せるわけねぇよ」


いつもよりずっと低い声で話すお兄ちゃんだったけれど、もしかしてこれが本当の姿なの?

わけがわからず、言葉を返すことができない私に笑いかけるお兄ちゃんがたまらなく怖い。


「怖がらなくていい。神田のことは俺に任せて」
「……っ、や…神田くんに何もしないでっ」

「何言ってるんだ未央?俺たちの邪魔をしたあいつは罪深い男、消して当然だ」


ドクンと、心臓が大きな音を立てて。
嫌な汗が流れる。


消す……今確かにお兄ちゃんは神田くんを消すと言った。

それってつまり───



「あいつって簡単には死なねぇしな。夏祭りの日だって、結構深く刺したつもりなのに」

「……っ!?」

「あいつ、片手で俺の手首の骨折ってきてよ。
痛かったなぁ、あの噛み付く感じが腹立つ」


嘘だ、信じたくない。
その一心で首を横に振る。

だって、今の言葉が本当ならあの日神田くんを刺したのは───



お兄ちゃんだって言うの?


「嘘、言わないで…お兄ちゃんがそんなことするわけない」

「未央は優しいな、俺も庇ってくれるのか。
でも残念ながら本当なんだ。

驚いたよ、未央に執着してるあいつ見て。腹が立つけどそれ以上に好都合だと思った」


お兄ちゃんは慣れた手つきで私の頬にキスをする。


「……やめてっ!」

ゾワッとした私は慌てて顔を背けるけれど、自由を奪われているためそれほど抵抗はできない。