「昨日持って帰って焼いたとき、みんな、食べられたもんじゃないくらい硬くてパサパサしてるって言ってたんですけど。

 今朝、清ちゃんが焼いてみたら、ふかふかになってて美味しかったんですよ。

 あったかいと美味しいみたいですよ」

 そう教えたのだが、陽太は、
「あっためてまで食べたくない」
と言う。

 まだ拗ねてるのか、と思って見ていると、陽太はデスクで頬杖をついて、よそを向いていたが。

 チラとこちらを見て、
「お前がうちに来て、あっためてくれるんなら食べる」
と言う。

 ……子どもか、と思いながらも、はい、と深月は笑った。

 そして、デスクの上に置かれている黒縁の眼鏡を見て言う。

「そういえば、その伊達眼鏡、最近、かけてないですね」
と言うと、

「伊達眼鏡だからな」
と言う。

 いや、そうなんですけど~っ。

 前はかけてたじゃないですか。

 そう確か、あの最初に船に行った夜までは、と思っていると、

「支社長として此処に来たときは、舐められまいと思って肩肘を張ってたんだが。
 お前に出会って、気が抜けたというか」

 それ、いいことなのか、と思ったが、陽太は眼鏡を手でもてあそびながら笑って言う。

「これしてると、いろいろ邪魔だから」