オードリーが屋敷に戻ってすぐ、夫の両親に再婚について切りだすと、彼らはまず相手について根掘り葉掘り聞いてきた。
オードリーはレイモンドが幼馴染であること、料理人としてはすごい腕の持ち主であることを熱弁し、ここを出ていくことを許してほしい、と深く頭を下げたが、夫の両親は顔を見合わせ、渋い顔をするだけだった。

『今までの生活に何の不満がある? 何不自由させていないはずだ。まして相手が料理人だなんて。クリスにそんな下々の生活をさせるわけにいかない。どうしても出ていきたいというならクリスを置いて行きなさい』

クリスのことを持ち出されると、オードリーもそれ以上強気には出られなかった。
義父の言葉は、ある程度真実をついている。たしかに、暮らしぶりを考えれば、今までとは比べ物にならないほど、質素にならざるを得ないだろう。

しかし、心のほうはどうか。
クリスはレイモンドには懐いているし、彼も昔からクリスをかわいがってくれている。クリスにとっても絶対にアイビーヒルに行った方が幸せになれると確信できる。
ただ、それを言ってしまうのは、これまでよくしてくれた義父母に対してあまりに薄情なのではないかと思えた。
かといって、娘を置いて行くなど、オードリーにはできない相談だ。

『今まで生活させていただいたことは感謝しています。でも、私もあなた方の実子ではありません。夫が死んでもう四年です。再婚する権利はあるはずです。そしてクリスは私の娘です。手放すなんて絶対に嫌です』

オードリーは必死に訴えたが、許しはもらえなかった。
オードリーの外出時にはまるで見張りのように従者が付いて回るのだ。
そんなわけで、オードリーはいまだ屋敷を出ることができず、途方に暮れている。