「私の仕事と言えば、コピー取りと、お茶出しと、夜食の買い出しと!みなさんの雑用ばかりです。仕事の基礎すら、教えて頂いてません」


今の現状を変えたい。その一心で線の細い背中に呼び掛ける。


「仕事は自分で覚えるものだ。教えてもらおうなどと、甘い」


そうきたか…。


「分かっています。でも今のままでは何も学べず、ただの給料泥棒です」


「辞めろ」


「はい?」


歩くスピードが早くなり、駆け足で追いかける。彼の身長は185センチで足のコンパスが長く、スタイルが良いと評判だ。



「おまえのような奴は、我が社のゴミだ。とっと消えろ」


「……」



思わず足が止まった。


"消えろ"
未だかつて誰かにそんな暴言を吐かれたことはなく、驚きのあまり何も言い返せなかった。


辞めろーー会社を辞めろということだ。
理不尽な現状に唖然としている間に、東課長は社長室に入って行ってしまった。

さすがに社長室にまで乗り込む勇気はなく、ショックを受けたまま立ち尽くす。


東課長はエレベーターを下りた後、一度も私を見なかった。最初から話など聞くつもりもなかったのだろう。


このまま、帰ってしまおうか。


そんな逃げ道が脳裏に横切った瞬間、目の前に影がおちた。