食事が終わり、連絡先を交換しようとして、お互いにスマホを取り出した、その時。

「あれ?」

久世君は、自分のスマホを見つめながら、妙な表情を見せた。

「どうしたの?」

瑠衣が聞くと、彼は自分のスマホの画面を見せてくれた。

「この携帯…おかしい」

画面の色が真っ赤になっている。
こんな画面を見たのは、初めてだ。

瑠衣も携帯を覗き込んだが、原因はさっぱりわからない。

「変だね」

どこを押しても触っても振っても、反応は無し。

「故障かな」

彼は溜息をついた。

「帰りに携帯ショップ寄って、直す」

それから少し残念そうに、
「明日学校で、佐伯さんに連絡先教える」
と言った。

聞くと、最寄りの携帯ショップは電車を乗り継いで行かねばならず、駅からもかなり歩かなければならないようだ。


「あ!」


瑠衣は、いい事を思いついた。


「久世君、携帯ショップに行かなくても、すぐに直してくれる人、いるよ」

彼は、目を見開いた。


「誰?」


瑠衣はニヤリと笑った。


「私の妹」



「…双子の?」



「そう。機械は得意なの。科学者だから」






結局、しばらく動物園を2人で回った後、久世君は瑠衣の家について来た。

スマホを直す為。

瑠衣は6日前に出会ったばかりの、今日友達になりたてのクラスメイト、しかも超イケメン男子を、自宅に連れて来てしまったのだ。


16時過ぎに小さな一軒家の呼び鈴を鳴らすと、鼻歌を歌いながら、瑠衣の母がインターホンに出た。
玄関のドアを開け、母は一瞬固まった。

「まあっ!!!」

母は、久世君のあまりの美しさに仰天し、頬をピンク色に上気させ、感嘆の声を上げた。

事情を説明すると、久世君と瑠衣に家のリビングに上がるよう促してから、超特急で理衣を呼びに行った。

しばらくすると、2階から理衣の声が聞こえた。

「部屋に来ていいよ!」


2人は2階に上がり、階段を登った突き当たりにある、理衣の部屋のドアをノックした。

「理衣、ごめんね突然」

ドアを開けながら、瑠衣は妹に声をかけた。

「いいよ。おかえり、お姉」

部屋の中は、ごちゃごちゃとした発明品で溢れていた。棚の上はもちろん、机の上までも占領している。

『ボイスタイピング・ゴールデンライオンタマリン』

『白猫・シルリイ』

とかいう、本人以外にはまるで意味のわからないラベルが、至る所に貼ってある。
足を踏み入れようにも、どこを踏んでいいのか、さっぱりわからない。

「あ、そこ入らないで。まだ部品が散乱してるから」

瑠衣は、慌てて出した足を引っ込めた。
置き場が無い発明品は、床の上にもダイナミックに散らばっており、物凄くカオスな状況である。

仕方なく、入り口付近にて待機する。

瑠衣は久しぶりに理衣の部屋の惨状を見たが、あらためて思う。

とても女子の部屋とは思えない。

理衣はパソコンに向かっており、何やら作業の途中だったようだ。

「久世君、こちらが妹の理衣です」

久世君に自分を紹介されると理衣は、初めて顔を上げた。

「はじめまして。理衣です」

理衣は、久世君の顔を見つめた。

瑠衣は妹を見て、表情が急に硬くなったと感じた。

無理もない。
この家に、同じ年頃の男の子を入れるのは、初めてだったから。

「姉がお世話になっています」

「久世です。よろしく」

久世君は、理衣に軽く会釈した。

「スマホ、見せて」

瑠衣は、あらかじめ理衣にメールで状況を説明してあった。

「いきなり画面が真っ赤になった」

理衣は久世君からスマホを受け取ると、目にも止まらない速さで画面をタップし、たった10秒でそれを直してしまった。

「起動障害」

理衣は、続けた。

「という症状だった。もう直った」



早!!!


もう直っちゃった。


「ありがとう…」


久世君は、スマホを驚きの表情で受け取ってお礼を言うと、目を見開いて理衣を見つめた。


「すごい」



「得意分野なので」


理衣は少し得意げに言った。


何だか不思議だと思っていたら、瑠衣は急にピンと来た。



この2人、似てるんだ。



カタコトでしか喋らない所とか、なかなか笑顔を見せない所とか。




無事に連絡先を交換し終えた所で、一階から母が瑠衣を大声で呼ぶ声が聞こえてきた。

「ごめん、ちょっと呼ばれてるから下に行ってくるね!」

瑠衣は2人を残して、部屋を出て行った。