どうやら【綺麗】だとか【美しい】などの言葉を、あまり言われた事がないようだ。

「ラブラブなお二人の邪魔をするわけには行きませんね」

「ブラッド様なら必ず幸せにしてくれると思いますよ」
 
女神たちは軽く頭を下げると楽しそうに話しながら行ってしまった。
 
彼女たちの姿が見えなくなると、オフィーリアは俺の体を突き飛ばしてから怒って言う。

「いったいどういうつもり!? 私が婚約者って?!」

「まあまあそう怒らないで。こう言っておいた方がお前の為にもなるんだよ」

「ど、どういう意味よ?」
 
まあ虫よけ?
 
彼女は握っていた拳を解くと目線を下にさげて言う。

「婚約者とかは……私なんかより、もっと大切な人に言う言葉でしょ?」

「オフィーリア?」
 
オフィーリアはまた寂しそうな表情を浮かべていた。
 
何でそんな寂しい表情ばかりを浮かべるんだ? 
……どうしてそんなに悲しそうなんだ?

「それに私はあなたと出会って、まだ一日も経っていないんだけど?」

「あ〜……言われてみればそうだな」

「私はまだあなたのことを何も知らないのに」
 
そう言ってオフィーリアは俺から目を逸した。
 
きっと今の彼女に聞いても教えてはくれないだろう。

なぜそんな寂しそうな表情を見せるのかを。

「とりあえず早く行こうぜ? カフェに行きたいんだろ?」

「う、うん」
 
俺はオフィーリアの手を取って歩き始める。

「ちょ、ちょっと!」

「迷子にならないようにだよ」

「ま、迷子って、そんな歳じゃないけど?」

「良いから良いから」
 
彼女の歩幅に合わせて隣を一緒に歩いて行く。

「なあオフィーリア。カフェ以外にも行きたいところがあったら連れて行ってやろうか?」

「えっ?」

オフィーリアは俺の顔を見上げると目を瞬かせた。