「一月?
それ、黒澤一月先輩のこと?」


志芳ちゃんはうなずく。


「まぁ、昨日会ったけど…」


てかいま、志芳ちゃん、一月先輩のこと“一月”って呼び捨てにした?


「それがどうかしたの? 一月先輩が?」


志芳ちゃんは少し考え「一月は…」と口にし、すぐに言葉を飲み込んだ。


「いいえ、なんでもないわ。今のは忘れて」


それから志芳ちゃんが自分から一月先輩のことを口にすることはなかった。


志芳ちゃんと一月先輩に何か関係があるのかな?


そうも思ったけれど「まぁ、どうでもいいか」とそれ以上は考えなかった。


そして家に帰ると


「ああ、希望。急で悪いんだけど、今日から家を出ていってもらえる?」


と、お母さんがとんでもないことを満面の笑みで言った。