口元に指先を当ててみる。あつい。
肩が上下に動いてる。
やだ。
この前のことは、事故って言い聞かせてなんとか落ち着いてたのに
なんでまたこんなことするの。
やだよ、こんなに優しく触れられると遼くんを思い出すから。
上書きしないで。
「……忘れたくないのに」
胸の内のセリフが涙と一緒にこぼれ落ちた。
立上がると、「おい」と腕をつかまれる。
振りはらった。
「触んないで」
「上月、」
「やっぱり嫌いだよ、中島くん。大嫌い」
視界がぼやけながらも、相手の目をしっかりと捉える。
「どうせ心の中で反応見て楽しんでるんでしょ。 私が流されそうになるの見て、笑ってるんだよね」
「は? 何言ってんの、俺は──────」
「さっきだって騙してたじゃん、信じれるわけない。 本当の中島くんは、軽薄で嘘つきで、最低な人間。そうだよね」
また息が上がる。
中島くんは何か言いたげに私を見つめるけど、結局そのまま口をつぐんだ。
否定しないということは、やっぱりそうなんだ。
もやっとしたものが胸の中をうずまいた。
背中を向ける直前、中島くんが傷ついた表情をしたように見えたのは、きっと気のせい。
気のせいじゃないなくても、どうせ、きっと、つくりもの。
一度も振り返らずに、駅まで走った。