女性の喧嘩をものめずらしそうに見物していたやじうまたちは、とっくにいなくなっていた。残ったのは、女性をとめた青年だけだ。
 放り投げた荷物を拾って埃を落としていた青年は、それが自分にかけられた声だと気づいて顔をあげる。

 振り向いた彼女は、埃だらけではあったが大きな目に白い肌をした美人だった。性格に似あわない地味な服装なのが、かえって彼の目には印象的に映る。

「私に何か用?」

 まっすぐに彼に向けられた瞳は、強い意志の光を宿していた。乱れた濃い金の髪が、さながら光のベールのように彼女を包む。

 青年は、その瞳から目が逸らせなくなった。
 
「いや、用というわけじゃ……」
 かすれた声でなんとか言葉を紡ぎだそうとするが、うまい言葉が出てこない。

「あ、そ。彼女も無事だったことだし、私を邪魔したことは特別に水に流してあげる。じゃあね」

「あ、ちょっと!」

 青年はあわてて、背を向けかけた女性の腕をつかむ。

「なに?」

「えーと」

 少し考えて、青年はにっこりと笑った。


「僕と、お茶しない?」