「あ! こら待ちなさい!」

 それをさらに追いかけようとする女性を、青年はがしりと羽交い絞めにする。

「君こそ待てってば」

「なんなのよあんたさっきから! あんたのせいであいつ、逃げちゃったじゃない!」

「いいんだよ、それで。君みたいな女の子があんな奴に勝てるわけ……」

「爪と歯には自信があるの!」

 がー、と獣のように歯をむき出しにして振り返った女性に、青年はようやく手をはなして苦笑する。


「その綺麗な顔が傷つく前にあの男が逃げてくれてよかったよ」

「傷なんてへいちゃらよ。ああ、悔しい。もっと噛みついてやればよかった」

 ぱたぱたと自分の服のほこりを払いながら、その女性は歯噛みして言った。

「あの……」

 すると、先ほど雑貨屋の店主と一緒にいた若いメイドが声をかけてくる。その目には涙が浮かんでした。