「それにしても、抱き合ってたってなに?」

「だから、それは語弊が……」

「じゃあ何よ?」

「……萌菜にはちゃんと話すから、今度ゆっくり聞いてくれる?」

「何よ、そんな深刻な顔して」


面白おかしく盛り上げようとしていた萌菜が、私の言葉に拍子抜けしたような顔をする。


萌菜には隠しごとしたくないって思ってるけど。
弥一とのことは、まだ上手く話せる自信がない。


昨日の帰り道、佐倉は私にあれ以上何も聞かなかった。弥一に何を言われたのか……きっと、佐倉だって少なからず興味があっただろうに。


「ほら、バイト。遅れちゃうからもう行って?」

「……迷子にならないでよ?知らない人にはついて行っちゃ」

「それギャグ?分かってるよ」

「芽唯は危なっかしいから、放っておけないんだもん。……本当に気をつけてね」



───”放っておけねぇんだよ”

佐倉の声が、脳裏をよぎる。

萌菜も佐倉も心配性だな、私これでも高校生だよ。さすがにアメちゃんにつられて知らない人についてったりしない。


「萌菜も、気をつけて。バイトがんば」


ヒラヒラと手を振る私に、名残惜しそうにしながらも萌菜はバイトへと向かっていった。