その後の展開も急であった。

 エミリアに対し、カーザール帝国からの召喚状が届けられた。

 身柄の保護を名目とした帝都フラウムへの呼び出しである。

 形式上は、王女を人質として預け、カーザール帝国の援助を受けるというものであった。

 誰の目から見ても、マウリス伯が邪魔者を追い出して王国を完全に手中に収める算段であることが明らかである。

 しかし、王女にはまるで事情が分からなかった。

 父王の死以来、身の回りの世話をする女官以外との接触を禁じられた王女はシュライファーとも会うことができずにいたのだ。

 衛兵からの伝達事項として明日の出発を事務的に告げられただけであった。

 そもそもエミリアはナポレモを出たことがなかった。

 この城壁に囲まれた街の外といえば、城館から見える小麦畑くらいしか知らない世界なのだ。

 不安な思いで暖炉の炎を見つめていると、窓が開いた。

 ナヴェル伯父だった。

 城内を固める衛兵達に見つからないように外壁をよじ登ってきたのだ。

「まあ、伯父様」

 窓を乗り越えながら老人が人差し指を立てる。

 部屋の扉の向こうには衛兵がいるのだ。

 聞かれてはまずい。

 そっと小声で話す。

「昔、我が妹のために忍び込んだ日のことを思い出しましてな」

「まあ、お母様のために」

「嫁入りして間もなくの頃、わしのところに手紙が届けられましてな。寂しくて泣いておると。懐かしい話ですわい。お嬢様はお元気でございましたかな」

「明日、フラウムへ発たねばなりません」

「うむ、マウリスのやつめ、独断が過ぎるようじゃ。帝国の威光を借りて、やりたい放題じゃな」

 伯父は両手の拳を何度もぶつけ合わせながら話を続けた。

「マウリスが給仕長とアインツを処刑してブリューガー家の財産を没収しおった」

「まあ、ではやはり、あの商人が犯人だったのですか」

「いや、そうとは分かってはおりません。最後まで自白しなかったそうですからな」

「では、真犯人は?」

「それが、マウリスはシュライファー殿を捕らえましてな。アインツの口から執事の名前が出たのが証拠だと」

「なんですって!」

 ナヴェル伯父がまた人差し指を立てる。

 つい声が大きくなってしまった。