◇ 陰謀の匂い ◇

 国王の死は直ちに城下でも布告された。

 表向きは病死とされたが、毒殺という噂はすぐに街中に知れ渡った。

 昼間の祝宴が幻だったかのように、夜の街は人通りがなくなっていた。

 静まりかえった街に酒場から出てきた人たちのわめき声がむなしく響く。

 エリッヒは布告の掲示を見上げながら、ときおり通り過ぎる街の人たちの噂話に耳を傾けていた。

「給仕長の仕業だってよ」

「ブリューガー商会も関わってるって噂だぜ」

「貿易商人だろ。外国の謀略かもしれんな。カーザール帝国ってのが仕組んだんじゃないのかね」

「東方貿易で稼いでるってことは、東のバルラバン帝国かもな」

 酔っ払いがわめく。

「へへへ、一番怪しいのはマウリスじゃねえのかな」

「おい、めったなことを言うな」

「だってよ、王国が自分のものになるんだぜ。小役人のくせにぼろもうけじゃんかよ」

 酔っ払いの関わり合いになるのを避けて、人々が散っていった。

 エリッヒは城館の塔を見上げた。

 壁にはめこまれた王家の紋章が月の光に照らされて鈍く輝いている。

「いったいどうなるんだろうな、この国は」

 彼は荷馬車を厩につないで宿屋に入っていった。