驚いた。


開いていた教室のドアから中に入ろうとすると、まだ彼が本を読んでいたから。



放課後のこの時間。
いつもなら、教室には誰もいないはずなのに。


思わず、手に持つ紙に力が入る。
クシャッと小さく音を立てたのが失敗だった。


「…終わった?」


初めて彼の視界に、私が映った。

確かに今、彼───
神田 拓哉(かんだ たくや)くんは私の方を見ている。


「白野さん?」

そしてまた、ありえないことが目の前で起こっていた。


白野 未央(しろの みお)。
これが私の名前。

つまり今、神田くんは───


私の名前を呼んだ。
これも初めてで、まさか覚えられているとは思っていなくて。

なぜなら彼は、一匹狼のような人だから。