ケータイ小説 野いちご

鷲高の王と囲われ司書



6日間の間に、言葉を交わしたのは一度だけ。

勤務5日目の昼休み明け、職員室から図書室までの渡り廊下を歩いていると、偶然、一人で向こうから歩いてくる矢吹くんとすれ違ったのだ。

咄嗟に何を言っていいかわからず、緊張で固まる私に、矢吹くんは「おう」と、何でもないように右手を挙げた。

「‥‥こ、こんにちは‥‥」

とにかく挨拶をしてつつがなくすれ違おう、そう思ってなるべく目を合わさずに通り過ぎようとする私に、矢吹くんはすれ違いざま、あの低い艶やかな声で言った。

「‥‥返事は決まりそうか?」

「え、‥‥あ、あの、返事、とは‥‥」

「だから、俺の女になるかどうかの返事」


やっぱり、あれって冗談じゃなかったんだ‥‥!と思っていると、矢吹くんはおもむろに続けた。


「‥‥他の奴ら、今は大人しいだろ」

「‥‥あ、うん‥‥今のところ、平和‥‥」

「それが続くかどうかは、お前の返事次第だからな」

そう言うと、矢吹くんはニッと笑って、「明後日な、センセイ」と言い残し、後ろ手に手を振って去っていった。


「‥‥明後日って、‥‥一週間って、冗談じゃなかったんだ‥‥」

初日に言われた、「返事は一週間後」という言葉を思い起こし、どうしようと、ため息が出る。

と同時に、初日の出来事が脳裏をよぎって、一気に顔が熱くなるのを感じた。

初日のあの日。頭を撫でてくれた手。いきなり押し付けられた唇。

怖い思い出を上塗りするかのような、色んなことが思い出されて、恥ずかしいような、なんとも言えない気持ちになった。



< 15/ 218 >