「それで、中島くんが何?」
「昨日、ね……」
キスされたんだけど………。
って、言えたらいいのに。
キスのことを話すには、それまでの出来事も話さなくちゃいけなくて、つまり中島くんが放課後、裏庭で煙草を吸ってましたと……。
煙草のにおいはもう消えてる。
制服は家に帰って真っ先に洗濯して、乾燥機に入れた。
だけど、最悪な口封じをされたおかげで、今バラしてしまったら、もっとヒドイことされるんじゃないかと気が気じゃなくて。
でも、バラしたのがバレなきゃいいんだよね。
ミカちゃん一人に言うくらい……と、思いなおし、いざ口を開きかけた、
そのとき。
「中島、おいーっす」
「どうした、今日遅ぇな」
クラスの中心で騒いでいた男子たちが声を上げたから、目が合う前にと、とっさに顔を下に向けた。
「なに、はのん。お腹でも痛い?」
急に机にうずくまるような姿勢をとったからか、ミカちゃんが心配そうにのぞき込んでくる。
「いや、違……う。なんでもない」
「そ? ちょうど今話してた中島くん、登校してきたけど」
「うん、わかってる」
だからだよ、見ないようにしてるの。