「におい、移った」




耳元で声がする。




「これで、告げ口できないね?」





いつの間にか、もってたゴミ袋を地面に落っことしていた。

それを呆然と眺めたのち、やっと声をあげられたのは、中島くんが体を離して10秒くらい経ってから。





「……ひどい 」


目の奥がじわっとあつくなる。





「こんなことしなくても、言わないのに……」



自分が思っていたよりも自分の声が情けなくて、可哀想になった。




それなのに、目の前の相手は少しも悪びれた様子はなく、むしろ






「えっ、泣くの? こんくらいで……面倒くさ」




呆れた顔をしてため息をつく。



信じられない。

キスしておいて、こんくらい、とか。

今までどんな生き方してきたら、そんなセリフが出てくるんだろう。





「もしかして初めてだった?」




首を横に振る。

これは本当。



ファーストキスじゃない。

こんな男に奪われてたまるもんか。

その点はよかった。



ううん、全然よくないよ。




私、今も

好きな人がいるのに。





「ならいいだろ、別に」



どこまで本気で言ってるんだろう。

もう、限界。




「……じゃえ」

「……は?」



少し眉をひそめた顔を、思いっきり叩いた。





「死んじゃえ、バカ !」