「……なんですか」

 まただ、と思いながら私は自分の足元を見下ろした。案の定、ストッキングに水滴が跳ねている。

 全力で走ったもんな……。

 汚れたパンプスのつま先を拭おうと屈んだら、ぽつりと名取さんの声が落ちてきた。

「前原ちゃんて……イモはイモでも、安納芋だったんだな……」

 この営業マンは、また意味のわからないことを言っている。

「はいはい、どうせイモですよ。それより早く戻らないと」

「いや、ちがうって。褒めてるんだって」

 改札に向かって歩き出すと、名取さんが慌てたように追ってきた。