手を振りながらおばあちゃんの横を通り過ぎ、イチョウ並木の遊歩道を抜けると信号に差し掛かった。



「神崎のばあちゃん、俺らのことまだ小学生だと思ってね?」


「小学生の頃、よく遊びに行ったもんね」



懐かしい。


ジロってば、よくおばあちゃんちの猫に引っかかれて血だらけになってたっけ。



「ふふっ」


「なーに笑ってんだよ」


「べっつにー?」


「変なヤツ」



信号が変わり、ふたたび走り出す自転車。


風で膨らむジロのYシャツから柔軟剤の良い香りがする。


こんな時間が、いつまでも続けばいいのになぁ……。



「ねー、ジロ」


「ん?」


「……やっぱ何でもない」


「何だそれ」



“茅野さんとは、その後どう?”



そう聞こうとしたけど、やめた。


だって、この時間は余計なこと全部忘れて、昔からのジロと私でいられる時間だもん。


ジロに他の人のことなんて、考えて欲しくない。



「ジロ!バテてる場合じゃないよ!しっかり漕いで!」


「おっ前!後で覚えてろよ!」



今まで当たり前だと思っていたジロとの時間が、こんなにも大切だと思うのは、どうしてなんだろう?


ジロと過ごしてきた今までの時間も、一分一秒、もっともっと大切にすればよかったって。


そんなことを思いながら、澄み渡る秋空を見上げた。