パシッ




乾いた音が辺りに響いた。


「ねえ」


私は低い声を出す。


「3人がかりで1人に手ぇ出すなんて男のやる事じゃあ、ないよねぇ?」

「あぁ? 女が口突っ込んでくんじゃねえよ!」

「笑止。その女に口突っ込ませたのどっちだ? あ?」

「てめぇっ!」


左のヤンキーが言うので言い返す。

全く、男女差別ダメ絶対。
まあ、とりあえず殴りかかってくるヤンキー共をぶちのめすか。


5秒経過。
足下には意識の無いヤンキー3人組。
いやあ、弱かったなぁ。


「あ、あの! ありがとうございます!!」


眼鏡くんが私に言う。

別に感謝されたくてやったわけじゃないんだけど。
ただ見て見ぬふりは胸くそ悪いってだけ。


「こういうのがいるからヤンキーに良い印象つかないんだよ。迷惑な話だね全く」


私は腰に手を当ててぼやく。

さて、何か忘れてる気が……




…………ん?





「……あああああああああああああああ!!!!!!!!」

「うへぁっ?!」


眼鏡くんがビクッてなったけど今は気にかけてる余裕はない。


「早く学校行かないと!! 行くよ眼鏡くん!」
「眼鏡くん?!」


私は眼鏡クンの手を引っ張って学校へ走る。
見たところ同高の制服だし、ここで別れるのもなんか変だから一緒に行こう。
そして、走りながら眼鏡くんに質問をした。


「何年何組なの? 出来れば名前も教えてもらえる?」

「え、えっと、2年B組の佐伯 太鳳(さえきたお)です」

「成る程、太鳳君ね。って、同じ学年だね」


やっぱり私の目は間違ってなかった。


「そうなんですか?!」


眼鏡くんなんで驚いてるんだろ。
ていうか私のこと知らないのかな。
自分で言うのもなんだけど私学校ですごい目立ってるんだよね。

あ、もちろん悪い意味でだけど。


あれ、もう学校着いてたわ。


「B組って右だよね? 私はE組で左だからここでお別れだね」


ローファーから上履きに履き替えて2階まで来た私は太鳳君にそう言った。


「じゃ、ばいばい!」


と、背を向けかけたところで太鳳君に呼び止められた。


「あ、あの! まだ貴女の名前、教えてもらってません!」

「ああ、そっか。敬語はなくて良いよ。タメ語でお願い」

「は……うん。分かった」


名前かあ。
……教えなくていっか!


「ナーイショッ。知らない方が次会った時感動が大きいでしょ?」


てことにしとこ。


「今日の事は皆には秘密ね!」


私は返事を聞かずに教室へ向かった。

太鳳君が私のことを呼んでいたけど、聞こえないふりをした。