「俺って、珍しいのか?」

「ああ。かなり珍しいと思う。俺たちの歳で恋をした事がないなんてさ。あ。もしかしておまえ、男にときめいたりしないか?」

 男にときめくって……ああ、同性愛って事か。それはないな。満員電車なんかで知らない男とくっ付くと、すげえ気色悪いから。

「それは断じてない」

「そうか。それにしても驚いたなあ。モテモテのおまえが、まさかの恋愛初心者とはな」

 う。俺は恋愛初心者だったのか……
 なんかちょっと、ショックかもしんない。

 俺は情けない気持ちになり、うつむいていたら、

「よし!」

 と、田所は力強く言い、俺はびっくりして顔を上げた。そして……

「おまえは、桜井女史を好きになれ!」

 と言い、田所はビシッと俺を指差した。

「俺が、桜井さんをか?」

「そうだ。好きと言っても、友達の好きじゃないからな。恋だからな?」

「恋、かあ。なんで?」

「女を落とすには、それが一番だからだ。おまえ、桜井女史を落としたいんだろ?」

「あ、ああ。まあな」

「だったら努力してみろ」

「どうやって?」

「そりゃあ、まずは桜井女史に接近する事だな。そして、彼女をよく知って、いい所を探すとかしろ」

「はあ……」

「時間だから、今日はここまでな? 健闘を祈る」

 田所は、ニタニタしながら立ち上がった。
 時計を見ると、確かに昼休みは終わりかけていて、俺も立ち上がった。コーヒーは、殆ど飲んでなかったが。

「田所、もしかして楽しんでないか?」

 喫茶店を出た後も、ニタニタをやめない田所に言うと、

「ああ、楽しいさ。ゲームだからな」

 と言われてしまった。