久しぶりの本気の恋に悶々としたり、胸をときめかせたりしつつも、業務はしっかり全うしなければならない。

耀との食事を二日後に控えた今日は、製造機器メーカー“ヤツシマ機械工業”の方々との接待だ。

私たちの工場で使用しているチョコレート製造マシンを新たに導入しようという話になっているため、工場長も同席する。今回はセッティングする側ではないので、いくらか気が楽だ。

冷たい小雨が降る中、三人で料亭に向かい、予定の午後六時の五分前に到着した。店の入り口で、先方が傘を差してお出迎えしてくれている。

あちらも同じく三人で、全員男性だ。その中の、一番小柄で優しげな雰囲気を醸し出す社長が、「あいにくの雨の中、お越しいただいてありがとうございます」と、私たちに頭を下げる。

こちらも挨拶を返し、他の男性方に視線を移した瞬間、私は目を疑った。仕事とはまったく関係ない場所で会ったことのある人物がいたから。

細すぎず太くもない体型、ワックスで固められた髪、三枚目俳優のような顔立ち……。見間違いじゃない。あろうことか、居酒屋でひと悶着起こした既婚オジサマだ。

う……嘘でしょう!? あのゲス野郎が接待の相手だなんて!

確かに、あのとき『機械の製造メーカーで働いている』と言っていた気がする。でも、まさかヤツシマの社員で、うちが関わることになるとは思いもしなかった。