「慣れてそうなのにな」


長いようで短いキスが終われば、菅原は私に色っぽく笑いかける。

その姿でさえ、なぜだかドキッと胸が高鳴ってしまった。


手をつなぐのも、こんな密着状態になるのも、キスされるのも。

全部、目の前の男である菅原が初めてだ。


そう言いたかったけれど、喋れない私は見上げるしかない。


「……今度こそ戻るか」

菅原がまたそう言ったかと思うと、やっぱり手を握られて。


もちろん私は何も言わずに諦めて、菅原の隣を歩く。


ふたりしかいない、隔離された空間から戻ってきたような、そんな気持ちになる。


実は私はみんなの思うような人じゃないこと。
菅原は“王子さま”のような人じゃないこと。


このことやこの関係も全部、ふたりだけの秘密なのだ。