ガラガラ…


中へ入りカーテンがしまっている一度奥のベッドに近づこうとしたら………


「…あ、遥斗くんっ!目が覚めた?」


聞き覚えのあるその上品な綺麗な声に、わたしの足は床に張り付いたみたいに動かなくなった。


……この声って、もしかして……。


もしかして、もしかしなくても。


「……ああ、百合」


まだ頭が働いていないようにつぶやく遥斗。


わたしと入れ代わるように……百合ちゃんが、遥斗のもとへやってきていた。

きっと百合ちゃんは、授業が終わってすぐさまここに駆けつけたんだ…。

遥斗が心配で、授業なんて集中できなかったにちがいない。


わたしだけが………遥斗の心配をしていたわけじゃないんだ。


そうだよ、遥斗には、百合ちゃんがいる……。


「………っ………」


だけど……だけど遥斗はたしかに、わたしを求めてくれた。

わたしの目を見て、手を握って、“そばにいろ”って言ってくれた──


「ずっと手握ってくれて………ありがとな」


カーテンの向こうで百合ちゃんに告げた遥斗の言葉に、足元が崩れ落ちる音がした。


………なんだ………そっか………。


意識がもうろうとしていた遥斗は………わたしを百合ちゃんだと思い込んでいたんだ………。


なんとか足を動かして、すぐさまその場から立ち去った。


ちがった………わたしを求めていたんじゃない。


あの瞳も、あの手を握る力強さも、あの言葉も、あの声も………

わたしに向けられたものじゃなかったんだ。


何度も歩き慣れている廊下なのに、視界がゆがんで、わたしはいったいどこへ向かっているのかわからなくなった──。