「えーそうなの? 残念。じゃあまた来週ね。おーい一同、前原ちゃん帰るって」

 板倉さんが店の前に集まっていた集団に声をかけると、わいわいと騒いでいた社員たちが私を振り返った。その中のひとりを、私の目はやっぱり見つけてしまう。

「前原。気をつけて帰れよ」

 社長の声に呼ばれて嬉しいと思う反面、苦しくなるのはなぜなのか。

「はい……みなさん、今日はありがとうございました」

「前原さん、おつかれさまー」

 手を振ってくれるみんなに頭を下げて、私はひとり通りを歩き出す。

 ビルに囲まれた空に明るい星は見えないけれど、視線を落とせば歩道の隅に溜まった桜の花びらが、やたらと白く浮き上がって見えた。