「…お母さん」


いつもどおりのお母さんが、そこには立っていた。


わたしは全身の力が抜けるようだった。それと同時に自分の体がこんなにもこわばっていたことに気がついた。


「っ遥斗くん、びしょ濡れじゃない!!雨に濡れたの!?笑、はやくタオル持ってきなさい!!」


お母さんは遥斗の様子に驚き慌てて声をあげた。


お母さん、わたしもね、はやくタオルを持ってくるはずだったんだよ。

それなのに、なぜかこうなったんだ…。


「いや、俺、もう帰るんで」


遥斗はすべてを遮るようにそう言うと、お母さんが軽く頭を下げ、この家を後にしていった。


「遥斗くん、大丈夫かしら…。って、笑、なに靴下のままそんなところに立ってるの?」


お母さんがそんなことを聞いてきたけれど、言い返す気力なんて、もう持ち合わせていなかった。


靴下を脱ぎ、自分の部屋へと、ふらふらと階段を上っていった………。