そして、新二は宣言通り席に座り込んで黙り込んだ。

それっきり頑なに口を閉ざす新二に、野次を飛ばしていたクラスメートたちも徐々に威勢を失っていく。

そう、誰が何を言おうが意味はない。全ての命運を決めるのは東雲秋人ただ一人だ。


「……何だよこれ……」


杉浦は静まり返った教室を見渡して呻いた。


「何だよこれッ!」


その時……秋人は静かに立ち上がって一歩前に踏み出した。


「やめろ……来るなッ!」


杉浦は後ずさろうとして無様に転び、そのままトカゲの様に床を這って逃げる。


「こっちに来るなッ……君はそんな人じゃない……君はどこまでも真っ白で天衣無縫な僕だけの天使なんだ……そんな君が僕を殺したりしちゃいけない……!」


一瞬、その言葉に秋人の眉がピクリと動いた。

無意識に握られた彼の拳を見て杉浦は震えあがり、みっともなく涙を流す。


「違う、今のは君を怒らせたかったわけじゃないんだ! 気に障ったなら謝るよッ! 何でも言うことを聞くからッ……そうだ、ここから無事に出れたら君の望むもの全てをあげる……一生君の奴隷になる……だから……!」

「杉浦。『強制連行』権限保持者に対する一切の交渉は禁止されている。それ以上話せばペナルティを課す」


『ペインター』先生が淡々と告げると、いよいよ杉浦は半狂乱になる。


「何でだよッ! 僕は何も間違ったことをしてないのにッ! 全てはみんなの為に、正義の為に生きてきたはずなのにッ!」

「そうだな、杉浦拓真。……だからお前は今ここにいる」


秋人が更に数歩、前へ進んだ。


「来ないでくれよぉ秋人君……僕が悪かったからもうそれ以上は……ああ、でも……悪くない……今の秋人君のその目……凄くゾクゾクするよ……こんな可愛い天使に殺してもらえるのか……僕はなんて幸せなんだ……さあ早くその綺麗な手で僕を――」



「僕の中から解放してくれ」



ズルズルと這いつくばっていた杉浦も、次第に歓喜の表情でうわ言を呟き始め……教室真ん中辺りで力尽きた様にガックリ動かなくなった。

(終わったな……それにしても杉浦の奴、なんて無様な姿なんだ……)

新二までもが憐みの目で見る中秋人はゆっくり進み、そして彼の手前で足を止める。

そして片手を上げ――真っすぐ相手を指しながら、秋人ははっきりとその言葉を口にした。



「この生徒を『強制連行』して下さい」