「ねーねーりゅうくん!」

「…………………………」

「りゅうくんってば! 聞こえてないの?」

「うるせえ聞こえねえフリしてんだよ察しろバカ!」

「何でそんなことをするんですか……? 僕のことがキライなんでしょうか……?」

「ああ、大っキライだよ」

「うう……さっきはオトモダチだって言ってくれたのに……」

「ああそうだな。そして、そんな嘘を吐いてまでお前に頼るしかなかった自分も大キライだ」


秋人を傷つけるつもりで言ったつもりだったが、彼は心底嬉しそうに声を弾ませた。


「っていうことは、僕とりゅうくんはやっぱりオトモダチだね!」

「はあ!? 何でそうなるんだよ!?」

「だって僕のことを頼ってくれたんでしょ? それは僕をそう思ってるからだよ!」

「バカ、調子に乗んな! 頼ったんじゃねえ、利用したんだ!」

「ねえ、さっきから何の話? 頼ったとか利用したとか……」

「な、何でもねえよ! こいつがわけ分かんねえこと言ってるだけだ」


新二は慌てて誤魔化した。もし自分が杉浦を言いくるめて秋人を身代わりにさせたことがバレたら、決しては彼女は良い気はしないだろう。

それどころか、彼女の馬鹿正直な性格を考えれば嫌われる恐れもある。


「とにかく、これから先も俺がお前を守る。だから凛香は何も不安に思う必要はない」

「……それは違うよ」


その時、秋人が天井を見上げながら不意に別人の様な声で呟いた。


「ど、どうしたの秋人君? 具合が悪いの?」

「おい違うってどういう意味だよ? まさかポンコツのお前に守れるとでも?」

「そうだよ。ポンコツでも何でもいい……僕が二人を守る」


そう言って秋人は、螺旋の刻印が光る瞳で新二を見据える。


「僕には先生が言ってた意味は分からない。染めるとか、痛みとか……それを理解するには、僕はまだ早いのかもしれない」

「はあ? 何言ってんだコイツ?」

「秋人君、先生と最近お話したの……?」


困惑する二人の前で、秋人は目を瞑った。


「でも、僕はずっとやりたことだけをやってきた。それだけは変えたくないもん。そして今僕がやりたいのは……僕の『オトモダチ』を守ること」

「……凛香はともかく、お前は俺を嫌って当然じゃないのか? もし無理やり『オトモダチ』という型に嵌めて自分を保ってるだけなら、偽りの『正義』で自分を保ってる杉浦のバカと同類だぞ」

「ううん、りゅうくんは凄くおこりんぼうだけど本当はとっても良い人だって僕は知ってるよ。それに、りゅうくんも僕を友達だって言ってくれたよね?」


そう問いかけられ、竜崎は言葉に詰まった。


「あ、あれは何というか……ああちくしょう分かったよ! 男に二言はない! お前は『オトモダチ』ってことでいいよ!」

「やったぁ!」

「新二君……!」


何よりも嬉しそうな表情を浮かべる凛香に、続けて秋人は告げる。


「もちろん、りんちゃんのことも守るからね。りんちゃんには多分、僕が今まで知らなかったものをたくさんもらったから……だからその、絶対に恩返しをしなきゃなのです!」


その言葉に、凛香は一瞬戸惑いを浮かべた後――新二にも見せたことのないような穏やかで、そして儚い笑みを浮かべた。



「ありがとう、秋人君。そう約束してくれただけで……私は充分に幸せだよ」