「うおおっ⁉」


机の下からヒョコ、とまたしても唐突に現れた秋人に、新二は驚いて席から落ちて尻もちをついた。


「アハハハッ……! りゅうくんコケた! だるまさんが転んだみたいにキレイに転んだのでりゅうくんはだるまさんなんだと思います!」

「て、てめえ何でここにいやがる……! 邪魔だからあっち行け!」


羞恥に真っ赤になりながら新二が怒鳴りつけると、秋人は困った表情を浮かべた。


「無理だよぉ、だってさっき向こうでも同じこと言われたもん……ここを追い出されたら僕、居場所なくなっちゃう」

「そいつはご愁傷様だ。確かにお前が邪魔で役立たずなのは向こうからしても同じだからな。俺らに情報を漏らす可能性を考えればお払い箱になって当然だ」

「新二君! そんなに酷いこと言ったら可哀そうだよ!」

「可哀そうとは言いつつ否定は出来ないだろ、凛香。それでもまだ、何かの手違いで紛れ込んだそこの幼稚園児を庇ってるのか? 俺らにはお荷物でしかない」

「でも新二君、言ったよね? テストが終わった今、何をしても変わらないのにって。なら私たちは何もすることがないわけだし、秋人君が一緒にいても問題ないと思うの」

「チッ……面倒くせえ。そこまで言うなら勝手にしろよ!」


真剣な眼差しで訴える凛香に、新二は舌打ちをしてそっぽを向いた。

凛香のやつ、秋人のことになると妙に口が回るよな……本当に俺のことが好きなのか……?

だけど、凛香が男を手玉に取るような小悪魔系には到底見えないし……ああちくしょう何な
んだこのモヤモヤは⁉

思春期特有の苦悶を浮かべる新二をよそに、凛香は秋人に笑顔を向ける。


「秋人君はここにいて大丈夫だよ。私たちが守ってあげるからね!」

「わーい! りんちゃん大好き! お礼にギュってしてあげるね!」

「おい凛香、俺まで含めるな……っててめえ! 人の彼女に何してやがる!」


新二が目くじらを立てると、秋人は凛香の胸元に抱き着きながら不思議そうな顔で彼女を見上げる。


「かのじょ……? かのじょってことは、二人はもしかして付き合ってるの?」

「え!? つつつ、付き合ってるとか、そういうのじゃなくてでも間違ってわけでもないけど……!」

「それってとっても凄いことだと思いますっ! 良かったらぜひチューを見せて欲しいです!」

「チュー⁉⁉⁉」

「バカっ俺たちは健全な付き合いをしてんだよ! そんなことするかっつーの」

「えー、じゃあチューをすると健全ではなくなるのですか? パパやママは僕にたくさんチューしてくれたから僕はもう不健全なのですか? それはとても悲しいと思います……」

「そ、それはその……そういうことじゃなくてね、秋人君……」


このヤロウ……! もしこれ以上凛香を焚きつけたら卒業まで消えないタンコブ作ってやる……と新二が拳を固めた時、


「……あ、でもそうだね! 二人は家族同士じゃないし、買ったばかりのゲームをする時はちゃんと説明書を読むもんね! 無茶なお願いしてすみませんでした!」


ペコリ、と頭を下げて謝る秋人と『べ、別に怒ってるわけじゃないから大丈夫だよっ!』と慌ててフォローする凛香を眺め……新二は奇妙な違和感を覚えた。

だが、すぐに気の迷いだろうと首を振る。

あんな杉浦や他のバカどもからすらも見放される様な、空前絶後のバカのことで頭を使う必要なんか一ミリもない――


そう言い聞かせていたせいか――醜悪な敵意と化した彼らの視線に新二は気づかなかった。