「あああ……うっ、え……?」


突然の出来事に、それまで傍観していた生徒たちが騒めく。

そんな中、陸に上がった魚の様に悶絶する秋人を彼女は冷たく睥睨する。


「からかっているのはお前の方だ。東雲秋人」

「僕……うっ、えぐっ……何でこんなヒドイことをされるんですかぁ……」

「お前のクラスではこの数ヵ月、とある生徒がイジメに合っていたことを知っていたか?」

「そ、そんなこと分かんないよぉ……全身がヒリヒリするよぉ……」

「被害者はお前の隣の席の北里という少年だった。彼はいじめに耐えかねて不登校になった挙句、一週間前に飛び降り自殺を図った」

「え……キタザト君が……? 知らなかった……だってただの風邪だって先生が……!」

「学校側は生徒に事実を伏せ、保護者にのみ事情を説明した。昨今の学校のやり口は何とも保守的で呆れるが、ともかくお前のご両親は真実を知っていた」


女教師はしゃがみ込み、彼の満月の様に丸い瞳を覗き込んだ。


「お前の母親は、何か一言でもお前に言ったか?」

「何も言われなかったよ……いつも通りお母さんは優しくて、遊んでくれて――」

「そうか。それはとてもいい家族を持ったな」

「僕は何かとてもイケナイことをしたのでしょうか? それなら教えて欲しいです……」


唐突に、女教師は思いきり彼の頭をヒールで踏みつけた。


「うぐあああッッッ!」

「おっと……椅子以外での『おしおき』はご法度だったな」


頭を押さえてのたうち回る秋人には目もくれず、女教師は無表情で椅子へ顎をしゃくった。


「席に着け。ここは教室だ」

「い……イヤだよ! 座ったらまたビリビリッってなるもん……!」

「大人しく座るわけもないか。椅子の背もたれを見てみろ」


促されるままに目をやると、背もたれ部分にはデジタル表示で残り『二分三十三秒』とあった。


「席を立つとタイマーが作動する。三分以内に戻らなかった生徒は、教室から『強制連行』処分……つまりここから永久追放となる」

「そうなの!? やったぁ! 僕こんな痛くてイヤなとこ、早く出て帰りたいと思います!」

「誰も帰れる、とは言ってないのだが?」


彼女の瞳に夜の帳が広がる。


「最初に言ったはずだ、ここは『特別学級』だと。そしてその生徒であるお前は今、たった数分間私と会話しただけでこの仕打ちだ。その意味が理解出来るか?」

「分かんないよぉそんなの……ビリビリはもう嫌だよぉ……」