「あの人、一部の人間に何て呼ばれてるか知ってる?」

麻衣子の問いに千歩は「知らない」と首を横に振った。


「“Black Cat”よ」


「“Black Cat”?」


「いつも黒スーツに黒ネクタイ、ふわっふわの黒髪といかにもアメリカ帰りなサングラス。おまけに名前が猫島だしね」


「あ~……なるほど」


千歩は思わず深く頷いた。

うまい事言ったものだと感心すらしてしまう。


「刑事部は検挙率ウナギ上りで黒い招き猫ってありがたがってるみたいだけど、犯罪を犯した人間からすれば不吉な黒猫。
彼から目を付けられたら最後。絶対に捕まるって縮み上がってるって噂だよ」


麻衣子はニャーオ、ニャーオと招き猫の真似をする。


「黒猫かぁ……」


千歩はその通り名を復唱しながら、ある日の事を思い出していた。