百合ちゃんの後ろ姿を、数秒だけ眺めた遥斗。


そのあと、自分の進む方向に目線をうつす途中に、視界に入ってしまった、棒のように立っているわたしの存在。

あと1メートル離れていたら、入らなかっただろう。

あと1メートルだけ、後ろに下がればよかった。

だけど、下がれなかった。

地に固まってしまったみたいに足が動いてくれなかったんだ。


遥斗と目が合ってしまった。


なにか言わなきゃ。

ちゃんと話すって、決めたんだから。

動いてわたしの唇──!


「い、今の子、彼女…?」


わたしの口から飛び出た言葉は、そんな質問だった。ある意味正直な自分。今のわたしには、遥斗が冷たくなった理由よりも、それが一番知りたいと本心が叫んでいた。


「そうだけど、なに」


短く、そして冷たく紡がれる。


遥斗の言葉はいつだって簡潔的だ。


彼女であることを認めたと同時に、“お前に関係ないだろう”という言葉がしっかり埋められている。それが手に取るようにわかった。それがわかるような言い方だった。


「おにあい、だね…」


それしか言えなかった。それ以上、もう、なにも……。


遥斗はなにも言わず、わたしたちの家の方向へすぐに進んでいった。


わたしたちの家は、隣どうしなのに。


まるで、わたしと遥斗はまったくの他人みたい。


別の道を進んでいる。


遥斗はもう……わたしのこと、必要じゃないんだ。