「送って、綾」
「はいはい」
面倒という顔をしていたけど、知らないフリをして倉庫を出た。
「また来てください!」
彼らの満面の笑みに手を振りながら。
「楽しかったか?」
「ええ、とても」
明日も行く気は本当になかったけど、これじゃあ毎日通いたくなる。
「翔って、実はすごく小心者なのね。あんな顔立ちしてるから、すごく驚いちゃった。ホラーゲームしてた時の表情…、何度思い出しても笑っちゃうわ」
そう言ってくすくすと、小さく笑う。
「やっと俺の前で笑ったな」
「え?」
「初めてみた時、お前死んだ魚のような目してた」
「そんなに酷かったかしら」
「なにもかもつまらないかように、俺を見ても表情ひとつ変えなかっただろ」
たしかに、変えた覚えはないけど。
「俺、そん時お前を笑わせたらどんな風になるか見てみたかったんだ」
世間のことを何も知らない少年のように彼は強い光を目に灯していた。