「渡辺、それって」
「もう、やだ!今日は、一人で行動します!それでは」

こんな自分、自分じゃない。

今はとにかく、藍原から離れて、冷静にならなくては。

咄嗟にそう思った私は、藍原にそう告げて、離れようとする。

だが、藍原がそんなに簡単に、はいそうですかと、離してくれる筈もなく。

再び、さっき座っていたベンチに座らされた。

「渡辺」
「…一人にしてください」

「渡辺」
「私、可笑しいんです。一旦冷静にならなきゃ」

「渡辺、聞け」
「今は何を言われても」

「明日香、」
「…」

突然下の名前を呼ばれて、ようやく藍原の顔を見た。

「お前はおかしくない」
「でも」

「明日香、よく聞け。お前は、俺が嫌じゃない。むしろ、惹かれてる」

…惹かれてる?

「俺の勘違いでもないぞ。お前は、俺が好きなんだよ」

頭を何かで叩かれたような衝撃を受けた。

「…私が…藍原部長の事を?」
「俺が言うのもなんだけどな。お前、誰かを好きになったことないのか?」

…『恋』と言う名の、『好き』という気持ちは知らなかった。

私は、藍原の言葉に、小さく頷く。

すると、藍原は少し溜め息をついて、私を抱き寄せた。

「まだ、全く自覚がないみたいだけどな。それはそういうことだから。そのうち自覚することになる」


うん、全く自覚はない。

でも、この腕の中は、とても心地良いと言うことは分かった。