「……メガネを見てたわけじゃないもん」

拗ねたように小さく呟く。
眼鏡を越さない菊池の視線が、真っ直ぐに佐々木に向けられた。

眼鏡をかけていない菊池の姿は、珍しい。

「……」

「……」

そのまま無言で見つめ合う。
しばらく経つと、菊池が視線を落として再び大きくため息をついた。

「……すみません。子供じみた真似をしてしまいました」

「え?」

机の上に置いた眼鏡をかけ直し、菊池は気を取り直すように日誌を書き続ける。
そんな態度を疑問に思いながら、佐々木もまた気を取り直すように菊池の観察を続ける。

「見てるだけなら、何か話してください」

「えぇー」

「なんでもいいです」

「なんでも?」

「はい」

菊池の答えに、佐々木はうーんと唸る。
なんでもいいから何か話せと言われて、話題がぽんっと浮かんでくるほど佐々木の頭の回転はよくない。

「質問でもいい?」

「……内容によりますが」

「白石さんのこと好き?」

「は?」

佐々木の質問に、菊池は手を止めた。
驚いたように佐々木を見つめる菊池に対し、佐々木は真っ直ぐと純粋な目を向けている。