結局、すぐ退院できる状態だったお父さんは残りの点滴が終了次第抜針、退院となった。

 昴さんは病院を出るとき、お父さんの汚い荷物を一手に引き受けてくれた。私はお父さんの手を引いて歩く。

 ずっとベッドで寝ていたせいか、少しふわふわした足取りのお父さんを導く。

 その手の温かさや厚みは、昔とほとんど変わっていなかった。絵の具が爪に入って取れなくなった、幼いころから大好きな手だ。

「まあ、意外に元気でよかったよ」

 呟くと、お父さんは頭を掻いてはにかんだ。

「ごめんなぁ」

「いいよ」

 会ったらたくさん文句を言ってやろうと思っていたのに、結局それだけで会話は終わってしまった。

 アンナさんと別れ、私たちは昴さんが手配してくれたホテルに向かった。

 お父さんは私の手を大事そうに握り、決して離そうとはしなかった。