水族館をくまなく周っていると、和希と絢斗がトイレに行くと言って行ってしまった。
取り残されたレオとツバサは、数秒立ち尽くすと、側の水槽に歩み寄った。
「あの、神崎さん」
「あ?」
「神崎さんって、ギターも歌も上手ですよね。いつからやってるんですか?」
「あー……ギターは、覚えてねぇな。昔からだ。歌は……」
レオは一瞬、苦しそうな顔をした。のを、ツバサはみてしまった。
「歌は、独学で今年からだ」
「え……すごい、ですね。僕音痴ですし、楽器も音楽の授業以外やったことないですし……尊敬します」
「何言ってんだ。料理のが役に立つだろ。俺お前の作ったもん好きだぞ」
息が詰まるのを感じた。
嬉しかった。
わかってしまった。

これが

“恋“

だって。

水槽の魚達がゆらゆら泳いでいるのを見て、心を落ち着かせる。

きっと、今のツバサの顔は赤いのだろう。
「どうした桜?」
「なんでもないです……あ、そろそろショーの時間ですね」
「おまたせ」
「ショー行こっか」

ショーを見て興奮状態と化した絢斗を落ち着かせつつ、ショープールを出る。
お土産屋さんへ行くと、店頭でくじをやっていた。
「かわいいねー。桜ちゃんやったことある?」
「6回やりましたが6等か5等しか出たことないんですよ僕運ないので」
「じゃあ代わりに引いてあげれば? お誕生日様」
渋々了承してくれたレオと、定員さんの元へ。
ツバサは千円札を定員さんに渡すと、レオは1枚くじを取った。それを開くと……。
「1等賞でーすおめでとうございますー!」
「嘘……信じられない」
「よかったねツバサ」
「神崎さん! ありがとうございます!」
「……おう。よかったな」
景品の大きなピンク色のイルカのぬいぐるみを抱き締める。
いつかは欲しいと思っていたこのぬいぐるみが、まさか好きな人に当ててもらえるとは。
「すごく嬉しそうだね」
「はい。嬉しいです!」

僕はまだ、生きていていいんだ。

そう、言われた気がした。