不意に、父が必死に自分の言い分だけを繰り返す、子供のように見えてきた。
私の話も、彼の話も聞く余裕がなく、ただ起きてしまった現実を咎めるだけの。

私と父だけでいたときは、そんなことはなかった。
私の話を聞いて、譲歩案を持ち出してくる彼を、私は理解がある父だと思っていた。
だけどそれは私が基本的に、彼の掌の上にいるからだったんだ。

こうして離れてみれば、たしかにわかる。
父は阿賀野さんの話をちゃんと聞かない。聞く気がない。理解の範疇にいないタイプの人間だから。
それはつまり、常識を覆されるのが怖いから。
知ってしまったら戻れないと、耳を塞ぐ代わりに大声をあげているんだ。

そのくらい、父の世界は狭い。

なんてことだろう。
この人はたった一日で、私の意識をここまで変えた。
広くなった足場から眺めるこれまでの私の世界は、小さな箱庭でしかない。

父は阿賀野さんをじろりと睨むと、「今後一切、美麗に近づかないでもらおう」と言い放ち、私の手を掴んで引っ張る。

「待って。お父さん、聞いて。私」

「聞けるか。信用していたのに、まさかこんな男に引っかかるなんてな。城治が土地開発部門に面白がって若いのを集めているのは知っているが、その中でもふらふらしている一番の根無し草だろう、阿賀野は」

「やめてよ、お父さん」

「お前の幸せを考えたら、こんな男には絶対にやれん」

「こんな男なんかじゃ……」

カッとなった私の視界が、阿賀野さんの背中で遮られる。
阿賀野さんが、私の腕を掴んだ父の腕を押さえているのだ。