「ストップストップ、専務」

気の抜けたような軽い声が聞こえてきて、目を開けると、父は阿賀野さんをすごい形相でにらんでいる。

「阿賀野! なぜうちの娘と一緒に居る。お前、美麗をかどわかしたのか?」

「ちょっと、お父さんやめて」

「専務、かどわかすって今どき言いませんって」

「ええい、うるさい。お前は黙ってろ。美麗! お前もお前だ。遠山さんと会うなんて嘘をついていたのか? 信用していたのに」

阿賀野さんを押しのけて、父は私の腕を掴む。
こんな風に父が感情的に怒るところを、初めて見たかもしれない。

「……ごめんなさい」

怯んだ私からは、考える前に謝罪の言葉が出た。
だけど、阿賀野さんがすぐに間に割ってはいり、やんわりと父の腕を掴んだ。

「専務、力強すぎですよ」

「おまえっ」

飄々とした態度に、父がまた激高する。

「美麗は嘘なんてついてませんよ。遠山たちとの飲み会の場に俺もいただけです。金曜に泊ったのは田中本部長の家ですし。昨日は、ちょっといろいろあって、一緒に泊ることになりましたけど」

「うるさい。君には聞いていない。美麗、男と一泊なんて何を考えているんだ。片桐君になんて言い訳する気だ?」

「お父さん」

「専務、専務、落ち着いて」

「お前のせいでこんなことになっているんだ!」

阿賀野さんがなだめに入るたびに、父からは余裕が失われる。