「楠木くん!
ペンキの蓋、固くて…開けてもらってもいい?」



「ダンボールも切るの手伝ってほしいな…」



そして楠木はというと。
ただ今女子数人に囲まれていた。



その理由はただ一つ。



夏休み前、私が楠木にお菓子を渡したあの日。



ギャップのある幼い笑顔を浮かべたものだから、みんなの心は見事に奪われ、今まで遠目からしか見ていなかった女子たちが積極的に楠木に話しかけていたのだ。



もちろん男子も、以前にも増して気軽に楠木に話しかけていた。



そのおかげで私たちの恋人疑惑は見事にかき消され、私自身安心していた。



「楠木くんモテモテだね」



陽菜はそんな女子に囲まれた楠木の方に視線を向け、そう言った。



みんなの変わりようは誰が見てもわかるほどで、逆に当の本人は不機嫌だ。