「いや、服装が場違い感あるかなって思って」

「場違い? なんで?」

阿賀野さんは私よりもっと場違いな感じがするスーツ姿だ。しかも、ズボンのほうはそのまま寝てしまったために皺だらけでもある。これでよく恥ずかしげもなく歩けるものだと感心しちゃうわ。

本当に意味がわからないのかと思いながらじっと見つめていると、阿賀野さんは土産物屋に入り、パッパッと迷いもなしに買い物を済ませた。

「ほら」

「なんですか? これ」

「タオル。せっかく来たんだし、風呂くらい入って行こうぜ」

「お風呂……って、銭湯じゃないのよ? こんな老舗っぽい宿がいっぱいのところで?」

「日帰り入浴くらいできるだろ。なんだ? 着替えも欲しいのか? ……パンツはコンビニくらいでなら売ってっかな」

「パッ……」

声に出すのも恥ずかしいような単語に、思わず彼の背中をどついてしまう。やってから、まさか自分がそんなことをするなんてと驚いた。

「痛えなぁ。まさか本当に入浴だけってしたことがないのか? 大丈夫だって、ついて来いよ」

また手首をつかんで、ぐいぐい引っ張っていってしまう。
途中でコンビニによって、瞬く間にいろいろ買って、その半分を私に押し付ける。
そして、着いたのはちょっと古ぼけた印象の温泉宿だ。