その瞬間、玄関のドアは閉まってしまった。

残ったのは、体震えているお母さんと、放心状態の私だった。

「由乃……由乃……。理人のところに行っては駄目よ。あなたは、夢見てるの。」


夢見てる?

私が?


「理人に言いくるめられただけよ。しばらくすれば、落ち着くわ。」

理人に、言いくるめられた?

「ねえ、由乃。理人もあなたも、善良な人間よ。落ち着けば、自分達の立場が見えるようになるから。」

私の瞳から、涙が流れた。

「お母さん。」

「なに?」

「私、それでも理人を、愛している。」

「由乃……」

お母さんは、私を抱きしめてくれたけれど、それは可哀相だと思っていたからに、違いない。


理人。

理人。

何度名前を呼んでも、足りない。

世界でたった一人だけ、私が愛している人。