「楽になりたいんです」

 実家のギャラリーを手放してしまえば、寂しいけれどおばあちゃんも私も自由になれる。そして社長が敵でなくなれば、もっと素直になれる。

 おじいちゃんには申し訳ないけど、私はもっと、幸せになりたい。彼に愛される存在になりたい。

 瞳にかかっていたフィルターがひとつ剥がれ落ちたような気がした。ぽろりと一粒だけ、涙が落ちた。

「……楽になればいい。今日は何も考えるな」

 小さなキスをひとつ落とすと、社長が私を横抱きにする。

「お前がどんな造形をしているか、じっくり見せてくれ」

 彼の言葉が耳朶をなぞる。私たちは寄り添い、アトリエから寝室へと移動した。今まで私たちを隔てていた、なにかを飛び越えて。