「美波さんって、いい匂いしますよね」


三鶴は海月の見舞いに何回か行っているうちに岸とも顔見知りになり、いつの間にか美波さん、なんて呼ぶようになっていた。

もちろん病院に通うにつれて、海月の家庭事情もなんとなく察していたようで、海月と岸の関係も知っている。



「なにこの、純粋な生き物は」

岸は濁りのない三鶴の瞳が苦手のようだ。



「それに岸さんに似て美人です」

「それを言うなら海月が私に似てる、でしょ」

「どっちにしても綺麗な顔してます」

「……っ。ちょっと、佐原くん!この生まれたてみたいなあんたの弟をなんとかしてよ!」


三鶴にペースを乱されてる岸がなんだか新鮮で。変わっていないことが多いように思える日常も、海月のおかげでやっぱり色々なことがいい方向に変わっている。



痛みや悲しみを共に知る者。海月は俺たちに強さも弱さも教えてくれた。


自分の病気と懸命に戦い、家族という今まで逃げてきたことにも向き合い、海月の最後の顔は笑顔だった。



さよならは言いたくなかった。


だから、またなって、次の約束をした。



きっと、海月にその言葉は届いてた。想いを返すように、俺が握りしめていた手に力を込めてくれたのが分かったから。