「見た目も大事ですが、スタッフの働きやすさも考えていただきたいですね」

 予算には限りがあるため、相手の要望をすべて叶えるというわけにはいかない。というか、このホテルの持ち主はうちの会社なのだから、彼らに偉そうに意見する権利はないはず。

 だけど、長年ここで働いてきたスタッフたちに残ってほしいという上層部の意向から、こちらも相手の意見を無視して強引に改装を推し進めることはできなかった。

「貴重なご意見、ありがとうございました。問題点は本社に持ち帰って、検討させていただきます」

 午後四時、打ち合わせは終了した。

「今日のこと、本社に報告されても知らないからね」

 松倉先輩は怒っていた。ラウンジでコーヒーをすすりながら、眉間に深い皺を寄せている。

「本当にすみません」

「だいたい自分から『仕事ください』って言っといて、居眠りはないだろ」

「その通りです」

 注文したトニックウォーターにひとつも口を付けず、頭を下げ続ける。脳天に、松倉先輩の大きなため息が直撃した。

「ふてぶてしい態度をとるなら、それにふさわしい仕事してくれよな」

「はい」