おばあちゃんは私のたったひとつの拠り所なのに。いつまでも元気で、このギャラリーを切り盛りしてほしいのに。

 泣きだしそうな私の前に湯呑を置き、おばあちゃんはまた元の席に戻った。

「ありがとう。美羽は優しいね」

 子どもをあやすような声に、うなずくことはできなかった。湯呑を包む手は冷え切っている。じんわりと湯のみから熱が伝わってきた。

「じゃあお互いに、もう少しよく考えてみようか」

 おばあちゃんが話を打ち切ったとき、タイミングよくというか悪くというか、裏口の呼び鈴が鳴った。出前が来たんだろう。

「美羽、取って来てくれる?」

「もちろん」

 私は気まずくなったその場から逃げるようにして廊下に出た。そばを受け取り、二階に運ぶ。二つのどんぶりを持って階段を上がるのは、若い私でも腕に負担を感じた。

 おばあちゃんにとっては、日常の何気ない動きがどれだけの負担になっているのだろう。そう考えると切なくなった。

 私は誰のために、必死になっていたんだろう。

 じわりと涙が浮かんできて、一度考えるのをやめた。

「おまちどおさま! 美味しそうだよ」

 おばあちゃんの前にどんぶりを置いて、割り箸を差し出した。熱いそばから立ち昇る湯気が、目に染みた。