自分の言うがままに、
 ……まあ、脅したとも言うが。

 芽以がサインした婚姻届を見、
「婚姻届まで、走り書きで書くなよ」
と逸人が言うと、

「……走り書きした覚えはありませんが」
と芽以はこちらを見上げ、生意気にも反論してくる。

「お前、もうノートパソコン背負って歩けよ」

 二度とその手で書くことがないように、と言いながら、その汚い字で書かれた婚姻届を見つめた。

 こんな日が来るとは思わなかったな、いろんな意味で――。

 きっと、圭太の根性なしのせいだ。

 そんなことを考えながら、
「よし、明日から、此処に荷物を運べ」
と言うと、芽以は、ええっ!? と声を上げて立ち上がる。

 だが、なんだかんだで芽以は幼い頃から自分には逆らわなかった。

 まあ、目と口で脅すつもりもなく、脅しているからかもしれないが……。