この店か、と芽以はその白い壁に緑の看板の店を見上げた。

 うむ。
 番地も合っている、と手にしていた走り書きのメモで確認をする。

 人から、いつも、
「……なんて書いてあるの?」
と問われるほど汚い芽以の字だが。

 実は芽以自身も時間が経つと読めなくなる。

 文字というより、時限爆弾付きの暗号のようなものだ。

 記憶と文字の形を照らし合わせ、ああ、こう書いてあるんだな、と思うだけだからだ。

 よかった。
 メモがメモの意味をなさなくなる前にたどりつけて、と思いながら、芽以は、十日後くらいには読めなくなっているであろう、そのメモ用紙をコートのポケットに突っ込んだ。